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2006/06/20

[ Science ] エボラ治療への足がかり

ヨーロッパの研究者によってウィルスのゲノムを保護するタンパク質の仕組みが明らかにされた。これはエボラ出血熱など効果的な治療法が確立されていない疾病の治療法の足がかりになるかもしれないという。拙訳ではあるが、EMBL のプレスリリースをここに転載する。
ウィルスのゲノムを包み込んでいるタンパク質の構造が明らかになった。このタンパク質はゲノムの複製を補助し、人の免疫反応から逃れるはたらきを持つ。

エボラ、measles ( 訳注:はしか、麻疹、嚢虫症といった病気のことを measles と呼ぶそうです )、狂犬病は発展途上国において深刻な脅威である。これらの病気は症状が異なるにもかかわらず同じクラスに分類されるウィルスによって引き起こされる。これらのウィルスは他の多くの生物とは異なっていて、遺伝情報を二本鎖DNAではなく一本鎖RNAをつかって伝達する。今回、IVMS と EMBL の研究者が、狂犬病ウィルスが人の免疫反応から逃れ人の細胞の中で遺伝子を複製するはたらきを持つタンパク質の詳細な構造を解明した。この研究は Science ( オンライン版 ) に掲載されている。この研究は新しい薬の開発につながり、また他のウィルス感染症に対して同様の方法で戦うにはどうするかという助けになるだろう。

狂犬病ウィルスが細胞膜を通り抜けて人の細胞に入り込むと、遺伝情報をもった RNA 分子は細胞の中心へと運ばれる。宿主細胞の細胞器官は大量のウィルスをコピーするために使われるように役目を変更されてしまう。宿主細胞で作られた新しいウィルスは他の細胞に感染する。この細胞器官をのっとるために重要なはたらきを持つ分子が核タンパク質 ( nucleoprotein ) だ。このタンパク質は細胞に入り込むときにウィルス RNA が宿主の免疫反応によって破壊されないようにする ( 訳注:原文は "The protein ensures that on its way through the cell the virus RNA is not destroyed by the immune response of the host." ~を通り抜けるとき( に ) というのがon one's way through の持つ意味ですが直訳すると「細胞を通り抜けるとき」となってしまいます。ウィルスは細胞膜を通り抜けて宿主細胞の中に侵入してその機能ををのっとるわけですから、このように訳しました ) 。

「核タンパク質は狂犬病ウィルスにとってきわめて重要なんだ」と IVMS のリーダー Rob Ruigrok は語る。「核タンパク質はウィルスが細胞内に入り込むために必要なタンパク質のひとつで、防御壁のように RNA を包み込んでいる。このタンパク質の盾がなければ、侵入者を排除しようとする免疫システムによって RNA は分解されてしまうだろう。」

Ruigrok のチームメンバーの一人 Aurelie Albertini はこの防護壁の正確な作用を調べるために、RNA に結合した状態の核タンパク質の結晶をつくった。そして ESRF で Amy Wernimont ( EMBL Grenoble 支局の Winfried Weissenhorn グループのメンバーだ ) が X 線解析を行ってこのタンパク質の高解像度イメージを作成した。

「核タンパク質は留め金のような役割をしている。2つのドメインから構成され、顎のような部分が RNA 鎖の周りをしっかりと包み込んでいる。いくつもの核タンパク質が RNA 分子の周りに並んで結合していて、ウィルスの RNA を分解してしまおうとする酵素はもちろんウィルスの複製に必要な酵素も RNA に触れることができないようになっている。このことは RNA を保護しているタンパク質には柔軟性があり、RNA に接近しようとする酵素を識別できることを意味している。」と Weissenhorn は語る。

複製を行うときになると、そのシグナルを受け取ったタンパク質の特定の部分が蝶番のように動くということが高精度の構造図から示唆された。

「この仕組みのため、核タンパク質を効果的な薬剤標的として使える。核タンパク質に結合して柔軟性を消失させ、閉じた状態のままにするような小さな分子は、ウィルスの複製を阻害しウィルスの拡散をストップするからだ。」と Ruigrok は語る。

狂犬病ウィルスに見られる保護方法はエボラ、 measles、ボルナなど RNA と核タンパク質の複合体が見つかるようなウィルスでも共通している。

「これは、我々の研究結果が狂犬病に対する新薬の設計だけでなく、狂犬病よりも恐ろしいものも含めて様々な疾病の新しい治療方法の開発にも役立つことを意味する。話は変わるが、核プロテインシステムの ( 遺伝的な ) 保存性には、共通の祖先や RNA ウィルスの原始的な感染ユニットについて進化論的な考察を行う余地がある。」と Weissenhorn はまとめている。

1995年にザイールで起こったエボラ出血熱の大流行は、書籍 ウィルス感染爆発 にまとめられるなど世界にウィルスの恐怖を植えつけた。わたしも致死率 90% 、治療方法なしと聞いて驚いたことを憶えている。Jenner が種痘を発明する以前にたいへん恐れられた感染症として天然痘があるが、この致死率は 20~50% だという。エボラ出血熱の致死率が桁違いに高いことが伺える。さらに効果的な治療法がなく、ワクチンも作成できない。

治療法、予防法が見つかっていないウィルスはいくつかある。そして、これらの恐怖のウィルスが世界に広まる可能性は十分にある。今回の発見で、解決への新しい道が開けた。恐ろしい可能性が現実になる前に研究者の努力が実を結んでほしいと切に思う。

Reference
Cracking a virus protection shield
( European Molecular Biology Laboratory, 2006/06/16 )
エボラウイルスのようなレベル4のウイルスの検査施設の危機的状況
( 社団法人 日本獣医学会, 山内一也, 1995/06/24 )
生涯教育シリーズ51「感染症の診断・治療ガイドライン」追補 天然痘
( 国立感染症研究所感染症情報センター, 岡部信彦, 2001/12/01 )
ウィルス感染爆発( NHK「エボラ感染爆発」取材班 著、日本放送出版協会 出版 )

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