2006/08/24

[教育] 3つの大切なもの

発端は日経新聞 2006/08/17 朝刊の第一面の記事とPOLAR BEAR BLOGのエントリ 「『答えがググれる世界』の教育」。新聞には「問題の答えを Google で検索してそのまま持ってきた小学生」の話が取り上げられ、それを基にネットで検索して答えを出すことへの批判が書かれている。

これに対して POLAR BEAR BLOG では、「『もっとも効率的』に目的を達成している。このことは評価するべきだ。ググれる世界では、検索しても見つからないようなことを教えるべき。ググれば済むことはそれでいいじゃないか」との見解を示している。一方で 404 Blog Not Found のエントリググらざる知肉キャズムを渡る方法で Dan氏は「『検索で答えを見つける』と『自分で考えて答えを導き出す』では結果は同じでも、得られるもの育つものが違う。子供の可能性を引き出すためにも自分で考えて答えを導き出させるべきだ」との見解を示している。

さて、わたしはというとどちらも必要だと思うのだ。ただし、比重でいうと Dan氏 が主張することの方が重要ではあると思う。POLAR BEAR BLOG でかかれていることは「道具があるならばその使い方を教えよう」ということで、Dan氏がいうのは「探究心を育てよう」ということだろう。しかし、この二つだけではなく、2つに加えて好奇心も育てることが必要だと思う。

現代社会では、多くの場面で物事を効率よくこなすことが求められている。この点で、「道具を使って効率よく目的を達成する」ことを学ぶことも必要なのだ。また、道具を使ってやってはいけないこと ( たとえばクラッキングとかね ) を教える必要もあるだろう。

しかし、道具の使い方を知っているだけ、つまり「この目的のためにはこの道具を使うんだ」を知っているだけでは未知の問題に対処できないし、よりよい道具を自分でつくることもできないだろう。

まだ誰も解を導いていない問題を解決したり、ある道具のもっと簡単なそれでいてより効率的な使い方をみつけたり、もっといい道具をつくるためには別のものが必要になると思う。まずは「なぜ?どうして?」という好奇心。そして問題の本質を見抜いて解を導こうとする探究心だ。

「これは***だから△△△なんだ」という本質を知っていれば、発展・応用して別の問題の解法に当てはめることができるかもしれない。たとえば Google が Ajax で世界を驚かせたように。また、問題の本質を見抜いて、「この道具には○○が欠けているんじゃないか。それを解決した道具を作ろう」ということで新しい道具を生み出せるかもしれない。Matz 氏が Ruby を生み出したように。そしてまた、「こういった使い方をすれば誰でももっと簡単に使えてよりすばやくできるようになるんじゃないか」ということに気付いて、ガイドライン的なものが生み出されるかもしれない。David Heinemeier Hansson が Ruby on Rails を生み出したように。

今あるものを発展させたり新しいモノを創ったりするには、好奇心探究心だけじゃなくてその道具の使い方も知らなきゃならない。また一方で、道具の使い方だけじゃなくて「どうしてそうなるのか」も知らなきゃならない。

道具の使い方。好奇心。探究心。これらはどれも必要なもので、どれも欠けてはならないのだと思う。

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2006/06/25

[ science ] ドードーの全身骨格が発見される

ロンドン自然歴史博物館の Julian Hume 博士らが所属する研究チームが モーリシャス島でドードーの全身骨格を発見した。 どのようにして絶滅したのかという謎を探る糸口になるかもしれないという。

その研究チームは、昨年いくつものドードーの骨を発見しているが 今回の発見はより「重要な意味を持つ」という。 これまでにもドードーの骨は発見されていたがそれは部分的なものだったし、 オックスフォードにあった唯一の剥製は保存状態の悪さから1755年に焼却処分されてしまっていたからだ。

Hume 博士らは、同じ発掘地域からはドードーの骨格が複数と、 ドードーとほぼ同時期に絶滅してしまったモーリシャス大ガメや、 既にそこには生えていない植物の種も発見したという。

今回発見されたドードーの骨は、少なくとも2000年は前のものだと考えられ、嘴と雛のものも発見された。

ドードーはずんぐりした体形で、羽は退化しており空を飛ぶことはできず歩行も早くはなかったという。 植物食性で、地面に直接巣を作ったという記録が残されている。 しかし、1505年に発見されて絶滅したのが1681年と、発見されてから短期間で絶滅してしまったためか 詳細な生態調査は行われておらず、ドードーの生態には謎が多い。今回の発見はドードーの生態解明に繋がるだろうか?

Reference
Dodo skeleton find in Mauritius
( BBC News, 2006/06/24 )

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2006/06/20

[ Science ] エボラ治療への足がかり

ヨーロッパの研究者によってウィルスのゲノムを保護するタンパク質の仕組みが明らかにされた。これはエボラ出血熱など効果的な治療法が確立されていない疾病の治療法の足がかりになるかもしれないという。拙訳ではあるが、EMBL のプレスリリースをここに転載する。
ウィルスのゲノムを包み込んでいるタンパク質の構造が明らかになった。このタンパク質はゲノムの複製を補助し、人の免疫反応から逃れるはたらきを持つ。

エボラ、measles ( 訳注:はしか、麻疹、嚢虫症といった病気のことを measles と呼ぶそうです )、狂犬病は発展途上国において深刻な脅威である。これらの病気は症状が異なるにもかかわらず同じクラスに分類されるウィルスによって引き起こされる。これらのウィルスは他の多くの生物とは異なっていて、遺伝情報を二本鎖DNAではなく一本鎖RNAをつかって伝達する。今回、IVMS と EMBL の研究者が、狂犬病ウィルスが人の免疫反応から逃れ人の細胞の中で遺伝子を複製するはたらきを持つタンパク質の詳細な構造を解明した。この研究は Science ( オンライン版 ) に掲載されている。この研究は新しい薬の開発につながり、また他のウィルス感染症に対して同様の方法で戦うにはどうするかという助けになるだろう。

狂犬病ウィルスが細胞膜を通り抜けて人の細胞に入り込むと、遺伝情報をもった RNA 分子は細胞の中心へと運ばれる。宿主細胞の細胞器官は大量のウィルスをコピーするために使われるように役目を変更されてしまう。宿主細胞で作られた新しいウィルスは他の細胞に感染する。この細胞器官をのっとるために重要なはたらきを持つ分子が核タンパク質 ( nucleoprotein ) だ。このタンパク質は細胞に入り込むときにウィルス RNA が宿主の免疫反応によって破壊されないようにする ( 訳注:原文は "The protein ensures that on its way through the cell the virus RNA is not destroyed by the immune response of the host." ~を通り抜けるとき( に ) というのがon one's way through の持つ意味ですが直訳すると「細胞を通り抜けるとき」となってしまいます。ウィルスは細胞膜を通り抜けて宿主細胞の中に侵入してその機能ををのっとるわけですから、このように訳しました ) 。

「核タンパク質は狂犬病ウィルスにとってきわめて重要なんだ」と IVMS のリーダー Rob Ruigrok は語る。「核タンパク質はウィルスが細胞内に入り込むために必要なタンパク質のひとつで、防御壁のように RNA を包み込んでいる。このタンパク質の盾がなければ、侵入者を排除しようとする免疫システムによって RNA は分解されてしまうだろう。」

Ruigrok のチームメンバーの一人 Aurelie Albertini はこの防護壁の正確な作用を調べるために、RNA に結合した状態の核タンパク質の結晶をつくった。そして ESRF で Amy Wernimont ( EMBL Grenoble 支局の Winfried Weissenhorn グループのメンバーだ ) が X 線解析を行ってこのタンパク質の高解像度イメージを作成した。

「核タンパク質は留め金のような役割をしている。2つのドメインから構成され、顎のような部分が RNA 鎖の周りをしっかりと包み込んでいる。いくつもの核タンパク質が RNA 分子の周りに並んで結合していて、ウィルスの RNA を分解してしまおうとする酵素はもちろんウィルスの複製に必要な酵素も RNA に触れることができないようになっている。このことは RNA を保護しているタンパク質には柔軟性があり、RNA に接近しようとする酵素を識別できることを意味している。」と Weissenhorn は語る。

複製を行うときになると、そのシグナルを受け取ったタンパク質の特定の部分が蝶番のように動くということが高精度の構造図から示唆された。

「この仕組みのため、核タンパク質を効果的な薬剤標的として使える。核タンパク質に結合して柔軟性を消失させ、閉じた状態のままにするような小さな分子は、ウィルスの複製を阻害しウィルスの拡散をストップするからだ。」と Ruigrok は語る。

狂犬病ウィルスに見られる保護方法はエボラ、 measles、ボルナなど RNA と核タンパク質の複合体が見つかるようなウィルスでも共通している。

「これは、我々の研究結果が狂犬病に対する新薬の設計だけでなく、狂犬病よりも恐ろしいものも含めて様々な疾病の新しい治療方法の開発にも役立つことを意味する。話は変わるが、核プロテインシステムの ( 遺伝的な ) 保存性には、共通の祖先や RNA ウィルスの原始的な感染ユニットについて進化論的な考察を行う余地がある。」と Weissenhorn はまとめている。

1995年にザイールで起こったエボラ出血熱の大流行は、書籍 ウィルス感染爆発 にまとめられるなど世界にウィルスの恐怖を植えつけた。わたしも致死率 90% 、治療方法なしと聞いて驚いたことを憶えている。Jenner が種痘を発明する以前にたいへん恐れられた感染症として天然痘があるが、この致死率は 20~50% だという。エボラ出血熱の致死率が桁違いに高いことが伺える。さらに効果的な治療法がなく、ワクチンも作成できない。

治療法、予防法が見つかっていないウィルスはいくつかある。そして、これらの恐怖のウィルスが世界に広まる可能性は十分にある。今回の発見で、解決への新しい道が開けた。恐ろしい可能性が現実になる前に研究者の努力が実を結んでほしいと切に思う。

Reference
Cracking a virus protection shield
( European Molecular Biology Laboratory, 2006/06/16 )
エボラウイルスのようなレベル4のウイルスの検査施設の危機的状況
( 社団法人 日本獣医学会, 山内一也, 1995/06/24 )
生涯教育シリーズ51「感染症の診断・治療ガイドライン」追補 天然痘
( 国立感染症研究所感染症情報センター, 岡部信彦, 2001/12/01 )
ウィルス感染爆発( NHK「エボラ感染爆発」取材班 著、日本放送出版協会 出版 )

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2006/06/04

eijiro の辞書データ

販売されていることは、意外と知られていないのかも。わたしは 6年前から購入しているので てっきりみんな知っていると思っていたんだけど( ´・ω・`)

goodpic:英辞郎の英和:和英辞書をローカル環境で高速検索

市販のソフトなども色々あるようですが、英辞郎そのものの辞書データが、1980円というリーズナブルなお値段でダウンロード可能なのですね。

確か大学の生協のお勧めコーナーにあったんだよね。確か、簡単な紹介冊子と辞書データを収めた CD がセットになって販売されていたんだ。収録語数が多いと有名だったリーダーズよりも多くて、でも価格は2000円とすっごく安かったのを憶えてる。当時はちょうど useful な英⇔和辞典を探していたところで、2000円ならハズレてもいいかもしれないってあんまり期待しないで買ったんだ。

でも、使ってみてびっくり。それまで使っていたどの辞書よりも便利だった。付属していた検索ソフトの PDIC には特定の単語を検索するとクラッシュするとかバグがあったけど、それでも収録語数は魅力的だったな。検索しても見つからない単語は他の辞書よりもはるかに少なかったからね。

紹介冊子に書かれていたスペースアルクのページも便利だった。当時はネットで有料辞書サービスがいくつもあったんだけど、それらの有料サービスよりも格段に優れていた。まず、収録語数は圧倒的。そして表示される例文も優れてた。大抵のサービスは熟語はちょこっとで例文はひとつかそこらしか表示されないけど、アルクのサービスではたくさん表示される。単語の例文だけでも数ページ表示してくれることもあるし、それだけじゃなくて熟語を使った例文も表示してくれる。これらがとっても役に立つんだ。

ローカルで辞書データを検索するのとアルクのサイトで検索することの違いは、ひとつは検索速度。 もうひとつは例文の数と質。ローカルで検索した場合はレスポンスが非常に早いのと、多くの辞書ソフトはインクリメンタルサーチを行うのでスペルを全部入力しなくても目的の単語が見つかることが利点だ。 しかし、例文は1つか2つしかないし質もびみょ~。一方で、アルクのサイトで辞書サービスを利用した場合は、ネットワークを間に挟むのでレスポンスは前者に劣ってしまう。けれど、結果がとても見やすい。例文もいくつも表示されるので実際にどうやって使うのかもわかる。そして、辞書は常に最新の状態に保たれているし、誤訳や掲載されていない訳を報告することもできる。

いまは、PDIC とアルクのサービスの両方を使ってる。英文を読んでいて「あれ?なんだっけ?」っていう単語が出てきたときは PDIC で、英文を書くときとかで「実際にはどうやって文を作るんだろう」っていうときは例文が豊富なアルクのサービスだ。

他に、対訳君というソフトを使うととても柔軟な検索ソフトがある。詳しくは対訳君の詳細ページを見てほしい。AND や OR を使った検索やワイルドカードを使えるのはとても便利だ。便利なのだが 11000 円は貧乏人にはちょっと手が出せない。

それから、はてなの id:naoya 氏がコマンドラインから検索を行うことができる perl スクリプトを作成している。

naoya のはてなダイアリー: eijiro.pl 改

この1,980円の英辞郎データで eijiro.pl するスクリプトをでっちあげてみました。 使う人はいないとは思いますが、いちおう svn co http://svn.bloghackers.net/public/eijiro/trunk からチェックアウトできると思います。
とのこと。初期化などの操作が必要なので、使い方については同エントリを参照すること。 eijiro.pl を使えば Linux でも使えるようになるんじゃないかな。

Reference
英辞郎 ( EDP グループ )
対訳君 英辞郎詳細 ( MCL Corp )
英辞郎の英和:和英辞書をローカル環境で高速検索 ( 2006/06/02, Goodpic, jkaneko )
eijiro.pl 改 ( 2006/06/02, naoyaのはてなダイアリー, 伊藤 直也 )

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2006/03/05

「私立」と「公立」と受け入れ拒否

今回は、松本被告の次男が春日部共栄中の入学を拒否されたことについて書きたい。 わたしは、これは別に不思議でもなんでもないと思っていたのだが、 404 Blog Not Found のエントリ カエルの子を変えるには などで書かれていたことに対して少しもの申し上げたい。

ほとんどの Blog で書かれているのは「不当な差別的扱いであって認められるものではない」 というものだ。しかし、ちょっと待ってほしい。春日部共栄は私立学校である。 企業である。公立学校とは違う視点で見なければならないと思う。

私立は、当たり前のことだが、経営者が経営方針を決めてそれにしたがって運営される。 企業としてのブランドイメージを磨き、より多くの顧客 ( つまり生徒 ) を獲得して利益を得ることを目的として経済活動を行っているのだ。 そのためには、たとえ成績が良好でも学校の方針に合わない生徒は 排除 ( つまり強制退学 ) させることだってできる。 強制退学処分が当たり前であるのと同様に、入学についても 「当校の方針に反するので、お断りします」といわれてもなんら不思議ではない。 春日部共栄に責められるような点は特に見当たらないと考えられる。

一方で、もしも今回のような事件が公立学校で起こった場合は話が異なる。 公立学校は全ての国民に教育を受ける機会を平等に提供するための公共機関である。 故に、公立学校において今回のような対応があった場合は、教育基本法第三条に反する。

第三条(教育の機会均等)
すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。
Dan 氏らがいうように、「不当な差別的扱いであって認められるものではない」。

Reference
教育基本法資料室

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2005/12/21

論文は公開されるべきだ

参照:最上氏の日記

わたしも論文は、読みたい人がいつでも読めるようにするべきだと思う。 現在では、論文を読むためには高い金を払って会員になるか、 ひとつの論文にだいたい $20 を払うのどちらかしかない。 中には無料で公開されている論文もあるが、少数であり、例外に属するだろう。 つまるところは、論文に目を通せるのはごく一部に限定されている。

ごく限られた人々だけしか最先端に触れることができない状況は 正しいといえるだろうか?そんなことはあるまい。

If I have been able to see further,
it was only because I stood on the shoulders of giants.
「わたしが遠くまで見渡すことができたのは、
ただ単に巨人の肩に乗っていたからである。」
とは、Isaac Newton の言葉である。彼は、この言を以って 科学とは偉人たちの業績の上に積み重ねて発展していくものだ ということを後世に伝えている。

ニュートンの言葉が正しいことは、今までの歴史が証明している。 現在の文明は、誰かが原理あるいは法則を明らかにし、誰かが それを人類の文明水準向上のために応用する方法を発見する。 そして、また誰かがさらに応用技術を開発したり、 取って代わる原理・法則を明らかにすることで発展してきたのだ。

原理や法則は、それを発見するだけでは文明の発達には繋がらない。 それを生活に応用する技術が開発されて初めて文明が発達するのだ。 「そんなもの知ったことか」とお偉いさんはのたまうかもしれないが、 発展・発達に繋がらない発見ならば存在しないことと変わりないだろう。

より多くの、よりよい技術を発見するためには、 多くの人に目を通してもらったほうがいい。 新しい発見や法則を導く礎となるためにも広く一般に公開するべきではなかろうか?

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2005/05/25

根拠の選択

自分の主張、あるいは研究で新しく発見されたこと。これらを支える根拠はとても大切なものだ。そして、評価する価値があるかないのかをよく考えなければならないものでもある。

わたしは大学時代は生物系の研究室に所属していた。卒論ももちろん書いたが、そこには研究で行った全ての実験データを記したわけではない。自分の研究を支えるでもなく、否定するでもないデータというものが存在し、それらは卒論には載せなかった。なぜなら、論文に無駄な装飾をすることになるからだ。

時間やスペースが限られているとき、引き合いに出す根拠を選ぶことはより重要なこととなる。そして、以前述べた「率直に、簡潔に、そして論理的に」表現する能力もまた結果を左右する。

なぜこんなことを書いているかというと、 MSがLinux対抗キャンペーンで「信頼性はWindowsが上である」と述べたことに対して、オープンソース支持者のブルース・ペレンス氏がとんでもないことを根拠に反論したからである。
参照: http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0504/06/news058.html

氏、曰く「ウイルスのことを考えるべきだ。私のメールボックスには毎日、 Windowsを標的とする30のウイルスが届けられる。これらのウイルスは既に感染してしまったシステムから送られてきたもので、(感染したユーザーの)知り合いすべてにウイルスを送りつけている。 Linuxやオープンソースソフトではこれほどの問題は起きていない」

これが信頼性を評価するにふさわしくないのは少し考えればすぐにわかるんだ。視点を変えてみることだ。つまり、製作者の立場で考えてみることだ。 Malwareを作る動機はいくつか考えられる。 多くのマシンが感染するプログラムを作ることで自身の技術力を誇示したい、 DDoS攻撃を行うために多くの踏み台がほしい、なるべく多くのマシンから情報を盗みたいとかね。さて、いくつか製作者の動機を並べてみたが共通することがあることに気づくだろう。そう、製作者はなるべく多くのマシンに感染させたいんだ。

となれば、どのプラットフォームをターゲットにすれば効率がいいのかわかるよね?
いまのところ、PCの9割以上はWindowsで、残りがLinuxやMac、FreeBSDだ。なるべくたくさんのマシンに感染させたいと思っているのに 5%にも満たないLinuxをターゲットにした攻撃コードを書くかい? Macをターゲットにした攻撃コードを書くかい? LinuxやMacユーザはとても数が少ないんだ。 100台のマシンを無作為に選んで攻撃をした場合、 Macをターゲットにしても効果があるのは5台以下なんだ。 WindowsのHotfix適用率が8割でMacやLinuxがインストールされているマシン全てでセキュリティホールが放置されていた仮定としても Windowsを狙ったほうがよりたくさんのマシンに感染させることができる。「たくさんのマシンに感染させる」という目的から見ればよほど頭が悪いか、物好きでない限りはLinuxやMacをターゲットに選ぶことはないことがわかるだろう?

このように、少し考えれば否定されるような根拠を挙げることは自らの首を絞めかねない。根拠はとても大切なもので、選ぶことは慎重にやらなきゃならない。

おまけ:
わたしから見たWindowsがLinuxよりも勝っている点は、ドキュメント、ドライバ、アプリケーション、操作性だ。ドキュメントはMS社がかなりの量を公開しているし、情報サイトでは実例も交えて経験の少ない技術者でも解るように噛み砕かれた説明がされていることが多い。多くの情報サイトではフォーラムも管理されているのでわからないことは現役の技術者に質問をして解決に導くことができる。これらの情報は日本語でほとんどを得られるという大きな利点がある。英語のドキュメントも良質な(読みやすい)ものが多く、中学生レベルの英語が読めるならば更なる情報を得られる。デバイスもWindowsを前提に発売されるものが多く、製品には大抵はドライバが付属する。Appも事務用からホビーユース、サーバーデーモンまでほとんどが揃う。操作性も視覚的直感で操作できるように工夫されているものが多い。総じて入り口が広いので気軽にITへ踏み込める。
一方で、デメリットはブラックボックスとほとんどが有料であることだろう。改良すればよりよくなるだろうと思うところがあっても Srcが入手できないので改良することができないし、セキュリティホールはベンダーがリリースする修正パッチを待たなくてはならない。いいソフトを見つけても価格を見て断念せざるを得ないことも多い。

Linuxの利点は、自由度の高さにある。ソースコードは公開されているし、それを書き換える自由も認められているから自分の好きなようにOSをカスタムでき、セキュリティホールもふさぐことができる(相当に高度なプログラミング能力が要求されるが)。これを支える開発ツールもOSに付属するしフリーで使えるIDEとしてEclipseがある。自分で使うツールをフリーのIDEで自作できるのは楽しみでもあるだろう(やはり相当に高度な能力が要求されるが)。能力さえあればLinuxは魅力的なプラットフォームだろう。デメリットは入り口の狭さとドキュメントが整備されていないこと。自分で開発する能力がない場合、公開されているAppを使うことになるが、これは(Windowsプラットフォームのように)まとまったドキュメントが用意されているということのほうが稀。有用だとされるドキュメントはほとんどが英語であり、出版されている書籍も少ない。入り口が狭いのだ。

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